「消防団員の報酬が受け取れない」という不正が、いま全国で問題になっています。
その仕組みは、消防団員に支給された報酬を団の上層部が「上納」させる構造的な問題
――いわゆる「上納システム」。
2022年に、総務省消防庁が是正通知を出したにもかかわらず、現金回収や通帳預かりといった手口が一部地域で今も続いていることが、取材や証言から明らかになっています。
この記事では、消防団の「上納システム」の実態と問題点、そしてその根本原因と解決策についてわかりやすく解説します。
消防団の「上納システム」とは?
消防団員に支給される報酬は、本来、個人のものです。
しかし、一部の消防団では、その報酬を団上層部が「団費」や「親睦費」の名目で現金回収したり、通帳を預かって引き出すなどの不正行為が行われています。
上納の2つの主な手口
- 現金型報酬が振り込まれたあと、団員が幹部に現金で「手渡し」する形式。LINEなどで支払いを指示されるケースも。
- 口座型団員に特定の口座を作らせ、通帳やキャッシュカードを幹部が預かる。報酬が入金されるたびに管理され、団員の手元に届かない。
これらは、本来違法性の高い行為であり、消防庁の通知でも明確に「是正対象」とされています。
消防団員の報酬の仕組みと本来のあり方
消防団員は非常勤特別職の地方公務員であり、年額報酬や出動手当が各自治体から支給されます。
- 年額報酬(標準):3万6,500円
- 出動報酬(標準):1日8,000円
消防団員の報酬はあくまで団員個人に支払われるべきものです。
そのため、消防団の運営費や親睦費に流用することは、本来許されません。
しかし、かつては「消防団経由の配布」が主流だったこともあり、旧態依然とした体質が残っている消防団もあるのが現状です。
なぜ「消防団の上納」はなくならない?根本原因を整理
全国の消防団で問題となっている「上納システム」。
なぜ、消防庁から是正通知が出されてもなお、消防団における上納の不正行為が繰り返されるのか。
その背景には、消防団組織内部に根深く存在する構造的な問題があります。
1. 消防団の上納を正当化する組織文化・慣習
消防団では、長年にわたり「団費はみんなで出すもの」「親睦会の費用は当然の負担」といった上納を当然とする風土が形成されてきました。
このような組織文化が若手団員にとっての無言の圧力となり、「消防団での上納は仕方がない」と受け入れざるを得ない空気が蔓延しています。
2. 情報格差と権限集中が生む消防団上納の温床
消防団の幹部が報酬管理や通帳を独占する中、一般の消防団員は、自分の報酬がどのように扱われているのか把握できません。
この構造が、消防団内の上納行為をチェックできない理由です。
つまり、権限と情報が消防団の上層部に集中した閉鎖的な消防団の構造そのものが、上納システムを助長する要因となっています。
3. 監査・制度設計の甘さが消防団上納の継続を許す
本来であれば、自治体は、消防団の運営状況を把握し、報酬の支給・管理体制を監査する責任があります。
しかし実態として、消防団における上納の流れや金銭管理までは監査が行き届いていないケースが多く、形式的な確認にとどまっていることが多いのです。
その結果、消防団の上納問題は可視化されず、是正されることなく続いているという現状があります。
このように、「消防団の上納問題」は単なる個人の不正ではなく、文化・構造・制度の3点にまたがる深い課題を含んでいます。
問題の本質を見誤れば、どれだけ是正通知を出しても、消防団での上納行為は繰り返されるおそれがあります。
だからこそ今、消防団全体の構造改革と制度見直しが求められているのです。
解決に向けた5つの対策と提案
消防団の信頼を取り戻すためには、構造からの改革が必要です。
1. 管理体制の透明化
消防団の報酬の流れをすべて可視化し、団員全員が確認できる仕組みを構築することが重要です。
2. 第三者チェックの導入
外部監査機関や自治体職員による不定期チェック・通報制度の整備が、不正の抑止力になります。
3. 報酬支給方法の見直し
現金のやり取りではなく、消防団員個人の口座に直接・本人確認の上で、支給されるシステム化を進める。
4. 教育・啓発活動の徹底
「上納=常識」という誤解を正し、倫理観の醸成やコンプライアンス研修の実施が求められます。
5. PDCAサイクルの導入
制度の整備後も定期的な検証と改善活動を繰り返すことで、持続的な変化を可能にします。
まとめ:地域防災を支える人に正当な報酬と敬意を
消防団は、火災や災害から地域を守る大切な存在です。
その消防団員に対し、本来の報酬が届かないという「上納システム」は、地域防災力を損ねる深刻な問題です。
今後、上層部の意識改革と制度の抜本的な見直しがなされなければ、同じ不正は何度でも繰り返されるでしょう。
地域を守る人々に、正当な報酬と敬意を届ける仕組みこそが、これからの消防団に必要な改革なのではないでしょうか。