北海道浜中町の霧多布岬では、絶滅危惧種のラッコが観光のシンボルとして注目を集めています。
しかし近年、鳥インフルエンザやシャチの襲撃といった自然の脅威にさらされ、保護を求める声が高まっています。
その一方で、実はラッコの捕獲や保護活動には、明治時代に制定された「臘虎膃肭獣猟獲取締法(らっこおっとせいりょうかくとりしまりほう)」という特殊な法律が関係しています。
この記事では、この法律の内容や背景をわかりやすく解説し、なぜ霧多布岬のラッコを人の手で守れないのかを考えていきます。
- 霧多布岬の野生のラッコを取り巻く環境
- 「臘虎膃肭獣猟獲取締法」とは?
- 霧多布岬とラッコの関係性
霧多布岬の野生のラッコを取り巻く環境
北海道浜中町に位置する霧多布岬では、野生のラッコが暮らしています。
その愛らしい姿は観光資源としても注目を集めていますが、自然界の厳しさの中でさまざまな脅威にさらされています。
霧多布岬の野生のラッコ
霧多布岬で野生ラッコが確認されたのは2017年。
2018年には繁殖も確認され、現在では町の象徴的な存在となっています。
陸上からラッコを観察できる貴重な場所として、観光客にも人気が高まっています。
ラッコは海中で貝やウニを食べる様子が見られ、特に親子連れの姿には多くの人が魅了されています。
しかし、この貴重な存在が今、大きな危機に直面しています。
鳥インフルで初のウイルス検出
2024年4月、町内で死亡したラッコの死骸から高病原性鳥インフルエンザウイルスが検出されました。
ラッコからの検出は国内初とみられ、専門家や地元の関係者に衝撃を与えました。
感染源は不明ですが、死んだ海鳥を抱えていたとの目撃情報もあり、今後の感染拡大が懸念されています。
町民の間でも「人の手で何かできないか」と不安と疑問の声があがっています。
シャチに襲われた親子のラッコ
5月23日には、観察ポイントとして知られる霧多布岬で衝撃的な出来事が起こりました。
親子のラッコ2頭が4頭のシャチに取り囲まれ、そのまま海中に消えていったのです。
襲われたのは2018年から計8頭の子を育ててきた実績のある雌ラッコ。
長年観察を続けてきた地元NPOの片岡氏は「自然の摂理とはいえ、本当に残念」と語っています。
これにより、霧多布岬のラッコたちは新たな捕食者にも脅かされる存在であることが明らかになりました。
町民の間でも高まる保護の声
鳥インフルやシャチの襲撃が相次ぎ、町にはラッコの保護に関する問い合わせが増えています。
「なんとか助けられないのか」との声も少なくありません。
しかし、霧多布岬のラッコたちは、現行の法律のもとでは人が直接介入して保護することが極めて難しいのが現状です。
ラッコの保護を妨げる「臘虎膃肭獣猟獲取締法」とは?
ラッコ保護の壁となっているのが、1912年に制定された「臘虎膃肭獣猟獲取締法(らっこおっとせいりょうかくとりしまりほう)」です。
この法律が今も有効であることが、現代におけるラッコ保護の難しさを象徴しています。
制定の経緯と条約との関係
この法律は、1911年に締結された「膃肭獣保護条約」を国内で実施するために制定されました。
当時、オットセイやラッコの乱獲が国際的な問題となっており、条約を通じた保護が求められていたのです。
翌年、臘虎(ラッコ)と膃肭獣(オットセイ)の保護を目的とする国内法として成立しました。
法律の対象と規制内容
臘虎膃肭獣猟獲取締法では、ラッコおよびオットセイの捕獲、毛皮製品の製造・販売などを原則禁止としています。
農林水産大臣の政令により猟獲が禁止されており、違反者には罰則も定められています。
また、捕獲した個体や加工品を所持することも禁じられており、取り扱いには厳格な制限が課されています。
特例規定と罰則の仕組み
研究目的などで例外的に捕獲が必要な場合には、農林水産大臣の許可が必要です。
無許可での猟獲や製品販売には、罰金や刑事責任が発生します。
このため、ラッコの命が危険にさらされていても、法律上、町や個人が勝手に保護・捕獲することはできません。
なぜ今もこの法律が残っているのか?
一見すると時代遅れに見えるこの法律ですが、実は現在も有効に機能しています。
国際条約に基づくものでもあり、法律としての正統性が保たれているためです。
また、ラッコはワシントン条約でも保護対象となっており、輸入も禁止されています。
そのため、法律の更新や見直しには国際的な合意も必要となるため、対応が難航しているのが実情です。
霧多布岬とラッコの関係性
霧多布岬のラッコは単なる野生動物ではなく、町にとって重要な観光資源でもあります。
観光振興や地域の活性化にも寄与しており、保全と活用のバランスが問われています。
霧多布岬でのラッコ観察と繁殖実績
ラッコは2018年に霧多布岬での繁殖が確認され、以降も複数の個体が観察されています。
繁殖実績があることは、地域の自然環境が整っている証でもあります。
陸上から観察できる環境は日本でも稀であり、多くの観光客にとって魅力的な体験となっています。
観光キャラクター「きりたん」の誕生
2023年にはラッコをモチーフにした公式観光キャラクター「きりたん」が誕生しました。
町のプロモーション活動にも登場し、ラッコは浜中町の「顔」として広く親しまれています。
キャラクターを通じて子どもたちへの啓発活動にも活用され、保護意識の醸成にも貢献しています。
観光客の増加と地域経済への影響
ラッコ人気の高まりにより、2023年度の観光客数は前年度比で約70%増加。
コロナ前の水準も上回り、地域経済に明るい兆しをもたらしています。
地元の飲食店や宿泊業者にとっても、ラッコの存在が集客の鍵となっています。
生息環境の維持と見学マナーの呼びかけ
観光客の増加とともに、ラッコの生息環境への配慮も課題となっています。
町では見学マナーの啓発や保護エリアの整備を進め、持続可能な観光を目指しています。
今後もラッコと人間が共存できる環境づくりが求められます。
まとめ|ラッコを守るには「見守る」という選択肢しかないのか
人の手で守れない現実がある中で、今私たちにできるのは「見守る」ことなのかもしれません。
この記事の内容をまとめると、以下のようになります。
- 霧多布岬では野生のラッコが繁殖し、観光資源として注目されている
- 2024年に鳥インフルエンザウイルスが初めて検出され、大きな懸念が広がった
- 5月には親子のラッコがシャチに襲われるという自然の脅威にも直面
- 地元では保護を求める声があるが、明治時代に制定された法律により捕獲や保護は制限されている
- 「臘虎膃肭獣猟獲取締法」は今なお有効で、研究目的以外での保護活動は困難
- ラッコは町の観光と経済に貢献しており、共存のための取り組みが進んでいる
ラッコの未来を守るためにも、まずは正しい知識と関心を持つことから始めてみませんか。