2025年6月、経済産業省が半導体企業「ラピダス」への支援にあたり、「黄金株(おうごんかぶ)」の保有を検討していると発表しました。
黄金株とは、会社の重要な意思決定に対して“拒否権”を持つ特別な株式です。
ラピダスは北海道・千歳市で次世代半導体の量産を目指す、国策的な重要企業。
なぜ国がそこまでして関与しようとしているのか、この記事ではその理由をやさしく解説します。
黄金株とはどういう株か
黄金株とは、ごく少数でも特定の議案を「拒否できる権利」がある特別な株式です。
通常の株とは異なる性質を持ち、企業の防衛手段や経営の安定化策として活用されます。
通常の株と何が違うのか
普通株式は、持ち株数に応じて議決権が配分されます。
つまり、たくさん持っている人の意見が通りやすくなる仕組みです。
一方、黄金株は「たとえ1株でも、特定の議題を否決できる」という強い権限を持っています。
このため、「拒否権付き株式」とも呼ばれています。
拒否権があることで何ができるのか
黄金株を持っている株主は、以下のような議案に対して拒否権を行使できます。
- 会社の合併・分割
- 取締役の選任や解任
- 株式の譲渡
- 重要な資産の売却
特定の人物や団体に経営が傾かないよう、「最後のストッパー」として機能します。
誰がどんな場面で使うのか
主に以下のようなケースで活用されます。
- 創業者が後継者に経営を任せる際、一定のコントロールを保つため
- 敵対的買収を防ぎたいときに、信頼できる第三者に黄金株を持たせる
- 今回のように、政府が出資と引き換えに企業への関与を明確にしたいとき
一般企業ではめずらしいですが、国家戦略や特殊な事情がある場合に限って導入されることがあります。
なぜ政府はラピダスに黄金株を持とうとするのか
ラピダスに黄金株を持たせる背景には、「税金で支援するからには国としての関与が必要だ」という考えがあります。
外資による買収リスクの回避
現在、半導体は世界的な争奪戦の中にあります。
外資ファンドや海外企業によるM&Aが活発な中、日本が巨額の税金を使って育てた企業が、後から外国資本に買われてしまうリスクは現実的です。
黄金株があれば、そうした事態が起こったときに国が拒否権を行使して防ぐことができます。
技術流出を防ぎたいという国の狙い
ラピダスが取り組んでいるのは、世界最先端の「2ナノメートル」級のロジック半導体。
この技術が海外に流出すれば、日本の技術的優位が崩れ、安全保障面でも大きな打撃となります。
そのため、技術や人材を守る“防波堤”として、政府の関与は不可欠と判断されました。
政府出資にともなうガバナンス確保
政府が多額の資金を出す以上、「出しただけで何も口を出せない」状態にはしたくありません。
黄金株を通じて最低限のガバナンス(経営監視)を確保し、税金の使い道としても正当性を示したいという狙いがあります。
黄金株のメリットとリスクを整理
黄金株は強力な仕組みである反面、使い方を誤ると企業の自由を縛りすぎる可能性もあります。
敵対的買収の防止と経営の安定化
信頼できる株主に黄金株を保有させることで、外部からの乗っ取りを防げます。
企業が独自の方向性を保ち、安心して長期の事業計画を進められるというメリットがあります。
ワンマン経営や権限集中の懸念
特定の個人や団体が強すぎる拒否権を持つと、経営が硬直化するおそれもあります。
意思決定が止まったり、柔軟な経営ができなくなるなど、組織全体に悪影響を及ぼすケースもあります。
相続・譲渡時のトラブル防止策も必要
黄金株を個人が持っていた場合、その相続人が会社経営に無関心な人物だったとしても、拒否権だけは引き継がれてしまう可能性があります。
そのため、譲渡制限や事前の契約が重要になります。
まとめ|国が関与してラピダスを守る理由とは何か
黄金株は、企業の重要な意思決定を止める力を持つ特別な株式です。
政府がラピダスへの関与を強めようとしているのは、経済安全保障と税金の責任ある使い道を守るためです。
この記事の内容をまとめると、以下のようになります。
- 黄金株は、特定の議案に拒否権を持つ特別な株式
- 普通株と異なり、1株でも重要な経営判断を止められる
- 外資による買収や技術流出のリスクを政府が懸念
- 政府が黄金株を持つことで、最終的な拒否権を確保したい
- メリットが大きい一方で、使い方次第で経営リスクもある
日本の半導体産業を守る動きとして、今後もラピダスや黄金株の動向に注目していきましょう。