私たち道民にとって、「道」は日々の暮らしに欠かせない存在ですよね。
通勤、買い物、ドライブ、そして故郷を訪れる親しい人たち。
その「道」に、単なる移動手段以上の価値を見出し、地域を豊かにする壮大なプロジェクトがあることをご存知でしょうか。
それが「シーニックバイウェイ北海道」です。
「聞いたことはあるけど、具体的に何をしているの?」 「観光客向けの話だよね?」
そう思われている方も少なくないかもしれません。
今回、このシーニックバイウェイ北海道が、私たち道民の暮らしや地域にどう関わり、どんな未来を目指しているのか、その本質を詳細に、そして分かりやすくお伝えします。
この取り組みが、いかに私たちの身近な「道」を舞台に、北海道全体の価値を高めているのか、一緒に見ていきましょう。
シーニックバイウェイ北海道とは何か?〜その誕生から理念まで〜
まず、シーニックバイウェイ北海道の基本的な定義と、その成り立ちについて深掘りしていきましょう。
この取り組みは、単なる道路の美化運動ではありません。
地域と道路が一体となって、新たな価値を創造していく、極めて戦略的な試みなんです。
「シーニックバイウェイ」という言葉の成り立ち
「シーニックバイウェイ」は、英語の「Scenic(景観)」と「Byway(脇道、寄り道)」を組み合わせた造語です。
この言葉には、「ただ通過するだけでなく、景色を楽しみながら、地域に立ち寄ってもらいたい」という強い願いが込められています。
1990年代に米国で制度化されたこの概念を、北海道は2005年度から全国に先駆けて導入しました。

実はこれ、日本語にはなかった新しい概念なんですよ。
地域が主役の「日本型シーニックバイウェイ」
シーニックバイウェイ北海道が特筆すべきは、その運営体制です。
米国の制度からヒントを得つつも、北海道では「地域に暮らす人々が主体」となり、企業や行政がそれを支える「日本独自の仕組み」として確立されました。
行政はあくまで「黒子」に徹し、地域の皆さんのアイデアや情熱を最大限に引き出すことを重視しているんです。



これは、地域の内発的な力を引き出し、持続可能な活動を可能にするための重要な要素と言えるでしょう。
道がハートになる意味〜理念に込められた想い〜
シーニックバイウェイ北海道の公式ロゴマークは、道路がハートの形をしています。
これは、単に物理的な道路を整備するだけでなく、その「道」を通じて人々の心と心をつなぎ、地域と旅する人との間に温かい交流を生み出したいという、シーニックバイウェイ制度の「心」を象徴しているんです。



道民一人ひとりがこの活動の担い手であるというメッセージが込められています。
シーニックバイウェイ北海道の目的と戦略的な意義
シーニックバイウェイ北海道は、具体的にどのような目標を掲げ、どのような戦略でそれを達成しようとしているのでしょうか。
その包括的な目的と、国際的な視点も交えた戦略的な意義を探ります。
掲げられた将来像と具体的な目標
シーニックバイウェイ北海道が目指すのは、「新しく美しい北海道」の実現です。
これは、単に道路を美しくするだけではありません。
地域資源の発掘、保全、活用を通じて、私たち道民が誇りを持てる環境を創造し、訪れる人々が安全で快適に過ごせる環境を整備することを目指しています。
最終的には、この豊かな環境の中で、地域住民と旅行者、地域産業と観光産業が共生できる社会を築くことを理想としているんです。
この壮大な将来像を達成するため、二つの具体的な目標が設定されています。
- 美しいツーリング環境の創造: 沿道の景観整備に加え、交通安全対策やユニバーサルデザインの導入も推進し、誰もが安全かつ快適に利用できる美しい道づくりを目指します。
- 個性的で居心地の良い地域環境の創造: 北海道が持つ四季折々の景観、豊かな自然、歴史、文化といった多様な地域資源を保全・活用し、地域ごとの個性を際立たせることで、道民にとっても、訪れる人にとっても居心地の良い環境を創出することを目指しています。
国際観光を見据えた先見性
シーニックバイウェイ北海道は、2005年の発足当初から、 国際観光の動向を戦略的に見据えていました。
その定義の中で、「今後増大が見込まれるアジア圏外国人観光客に対し、 英語表記できる方がPRが容易」と明確に記されています。
この点からも、その先見性が伺えるでしょう。
これは、国際観光が本格化する前から、将来的な市場拡大を見越していた証です。
海外からの訪問者への情報発信の重要性を、当時から認識していたことを示唆しています。



私たち道民の身近にある道路が、実は世界の観光客から注目される舞台へと 変貌を遂げているんです。
「道」を舞台にした地域発展の統合的アプローチ
この取り組みは、「道」を単なる交通インフラとは捉えていません。
むしろ、地域発展のための中心的な「舞台」としています。
活動理念は「道を舞台に」です。 地域ならではの資源、例えば自然、歴史、文化などを活かした活動を促進します。
その目的は、道路の美化や維持管理だけではありません。
「地域活性化」「観光振興」「美しい国土景観の形成」といった、 幅広い成果につながるよう設計されています。
私たちの日常にある道路は、地域経済、社会、環境を統合する 重要なフレームワークとして機能しています。
多様なステークホルダーが連携する基盤となっていること。
これこそが、シーニックバイウェイ北海道の戦略的な強みと言えるでしょう。


シーニックバイウェイ北海道を支える組織と連携の力
シーニックバイウェイ北海道は、どのようにしてこれほど広範な活動を推進しているのでしょうか。
その秘密は、多岐にわたる組織や機関が連携し、複雑かつ効果的なガバナンスモデルを構築している点にあります。
多様なステークホルダーが連携する推進協議会
シーニックバイウェイ北海道の運営を統括する中核組織は、 シーニックバイウェイ北海道推進協議会です。
その事務局は、国土交通省北海道開発局内に置かれています。
協議会は、北海道の主要な経済団体、観光振興機関、自動車関連団体などで構成。
さらに、北海道知事や国の各省庁の北海道管轄機関、 東日本高速道路株式会社北海道支社といった、 広範で影響力のある機関の代表者も参加しています。
このように、政府機関が制度的な裏付けと行政支援を提供しつつ、 産業界や地域団体が中心を担う体制です。
これにより、高レベルでの戦略的な連携と、部門を超えた資源配分が実現されています。



私たちの暮らしを支える様々な機関が、このプロジェクトのために 手を取り合っている、ということですね。
活動を支える支援センターと協力団体
シーニックバイウェイ推進協議会の戦略的な意思決定を受け、 現場での活動を強力にサポートしているのが、 一般社団法人 シーニックバイウェイ支援センターです。
このセンターは、多岐にわたる機能を担っています。
シーニックバイウェイの理念を広く浸透させるための広報活動、 情報共有、各種調査・研究、人材育成です。
そして、多様な団体間の連携促進のためのコーディネーションも行います。
また、活動には多くの協力団体が名を連ねています。
北海道農業協同組合中央会、北海道林業協会、北海道市長会、北海道町村会といった、 地域に根ざした団体です。
さらに、メディア、観光、交通関連の民間企業も協力しています。



これらの協力は、多角的な視点と専門知識を活動にもたらします。 そして、事業の多様性と実効性を高めているんです。
ボトムアップのアプローチが生み出す地域の活力
高レベルの政府や産業界の関与がある一方で、 シーニックバイウェイ北海道の根幹には、 「地域の方々が主役」という哲学があります。
地域の活動団体は、実践的な草の根活動を自律的に行います。 例えば、沿道の植栽や清掃活動、 地域固有の魅力やイベント情報の提供などです。
行政は「黒子」に徹することで、活動の実施を分権化しています。
これにより、地域レベルでの当事者意識と主体性が育まれるアプローチです。
地域ごとのニーズや資源、文化に合わせた柔軟な活動が可能になります。
そして、私たち道民一人ひとりが、自らの地域に深い愛着と誇りを持つきっかけにもなります。
これは、持続可能な地域発展と、地域社会のレジリエンス(回復力)を高める上で不可欠。



シーニックバイウェイモデルの、独特で永続的な強みと言えるでしょう。


シーニックバイウェイ北海道がもたらす効果
シーニックバイウェイ北海道の活動は、具体的にどのような成果を私たちの地域にもたらしているのでしょうか。
経済、観光、そして環境保全という三つの側面から、その影響を分析します。
地域経済への貢献とコミュニティビジネスの創出
シーニックバイウェイ北海道の取り組みは、北海道全体の経済、特に観光分野における付加価値額の増加に大きく貢献しています。
観光分野での付加価値増加額は、2020年度には7,553億円もの大幅な増加が見込まれていました。
これは主に、観光客数の増加と社会基盤整備によって牽引されています。
シーニックバイウェイ北海道の具体的な活動は、これらの広範な観光およびインフラ整備の目標と密接に連携し、その達成に重要な役割を果たしていると考えられます。
また、地域経済の活性化に直結する多様なコミュニティビジネスの創出も促しています。
- 地産地消の推進: 地元農産物の消費と販売を促進する「朝市フェア」や「漬物コンテスト」、直売所の設置などを通じて、地域内での経済循環を活性化しています。
- 特産品の開発・PR: 南沢はちみつやアスリート羊羹など、地域の特産品に統一ブランドを設定したり、ルートのテーマに合わせた革新的な商品開発が行われています。
- 集客施設の連携と回遊性向上: シーニックカフェや「道の駅」を活用し、訪問者の回遊性を高めることで、地域での滞在時間と消費を延ばしています。



これらの取り組みは、私たち道民の生み出す「モノ」や「サービス」に新たな価値を見出し、地域にお金を回す仕組みを構築しているんです。
観光振興と深い訪問者体験の創出
観光客誘致だけでなく、訪問者に地域との深い繋がりと記憶に残る体験を提供するため、多様な戦略が展開されています。
- 「秀逸な道」の選定とドライブモデルコース
北海道の広大な自然や文化を巡るドライブ観光を一層魅力的にするために、各地域が厳選した「秀逸な道」が15選定されています。また、日帰りから長期滞在まで、旅行者のニーズに合わせた多様なドライブプランが提供され、より質の高い体験を促しています。 - デジタルとリアルの融合
スマートフォン専用の「よりみちHOKKAIDO」デジタルスタンプラリーや、絶景ポイントに戦略的に配置された「シーニックデッキ&カフェ」は、現代的な統合型観光アプローチの好例です。ゲーミフィケーションを通じて訪問者のエンゲージメントを高め、同時に具体的な立ち寄り場所や交流の機会を提供しています。 - ユニークなイベントと体験
冬季に手作りのワックスキャンドルを設置する「シーニックdeナイト」や、ヒラメの定置網オーナー体験ができる「ヒラメ底建網オーナーin遠別」のようなユニークなプログラムは、従来の観光の枠を超え、訪問者に地域社会の奥深さと真の生活に触れる機会を提供しています。地域の課題を観光資源へと転換する「流雪溝活性化プロジェクト」のような革新的な取り組みも生まれています。



これらの活動は、単なる通過型の観光から、地域に深く滞在し、交流する「深い関与」型の観光への転換を促し、地域の経済的利益を最大化するだけでなく、地域住民の皆さんが持つ「おもてなし」の心を育むことにも繋がっているんです。
環境保全と美しい景観の維持・向上
シーニックバイウェイ北海道は、美しい景観の維持と環境保全を活動の重要な柱としています。
- 景観美化活動
道路沿いの花植えや森林整備、道路・河川の清掃活動など、広範囲で景観美化活動が行われています。私たち道民が日々目にする美しい景色は、こうした地道な努力の賜物なんです。 - 廃棄物管理と資源のリユース
「全道一斉ごみ拾い運動」への継続的な参加や不法投棄ゴミの収集を通じて、広範囲でのゴミ収集活動が行われています。また、道路沿道の雑木を伐採後、加工品として再利用するなど、資源の循環利用も試みられています。 - 持続可能な景観マスタープラン
釧路湿原・阿寒・摩周シーニックバイウェイでは、「持続可能な取り組み」として景観改善方法をマニュアル化し、次世代へ継承していくための検証が行われています。これは、単発的な活動ではなく、体系的かつ長期的な景観管理への移行を示すものです。 - 環境と観光の好循環
環境への投資は、単なるコストではなく、観光資産としての戦略的な投資です。より美しく整備された環境がより多くの訪問者を引きつけ、それが地域経済に貢献し、さらなる環境投資を可能にするという好循環をシーニックバイウェイ北海道は生み出しています。


まとめ:シーニックバイウェイ北海道は未来への道しるべ
シーニックバイウェイ北海道は、単なる道路網の整備に留まらない、多角的な地域活性化モデルとして、その戦略的な有効性と実践的な成果を明確に示しています。
この取り組みは、私たち道民の日常に溶け込む「道」を舞台としています。 地域の自然、歴史、文化といった多様な資源を、有機的に結びつけるのです。
そして、複数の目的を同時に追求します。 具体的には、経済的価値の創出、 訪問者体験の質の向上、 そして環境の持続可能性です。
「地域住民が主役」というボトムアップのアプローチと、多岐にわたるステークホルダーとの協働によって、地域固有のニーズに合わせた柔軟な活動を可能にし、私たち道民一人ひとりの当事者意識とレジリエンスを育んでいるんです。
美しい景観を守り、地域経済を活性化させ、訪れる人々に感動を提供する。
これら全てが、シーニックバイウェイ北海道の活動によって実現されています。
このプロジェクトは、私たち道民が、自分たちの故郷をさらに素晴らしい場所にしていくための、確かな道しるべであると言えるでしょう。
これからも、シーニックバイウェイ北海道が、私たちの暮らしと地域をより豊かにしてくれることを期待しています。
もし、この記事を読んでシーニックバイウェイ北海道に興味を持たれたなら、ぜひお近くの「秀逸な道」を訪れてみてください。
きっと、新たな発見があるはずですよ。