ドイツ国防省は、防衛力強化の一環として、18歳男性に対する徴兵検査の義務を2028年から復活させると発表。
背景には、ロシアの脅威やアメリカの安全保障関与への不透明感があります。
この記事では、ドイツで再び導入される徴兵検査の内容やその背景、各国の徴兵制度の動向、そして今後の影響について詳しく解説します。
ドイツの徴兵検査とは?

復活が予定されている徴兵検査の制度について、仕組みや対象を詳しく見ていきます。
徴兵検査の仕組み
徴兵検査は、18歳の若者の兵役に対する意欲や能力を把握するための選抜手続きです。
具体的には、18歳の男性に兵役の意志や準備状況を問うアンケート(質問票)の記入が義務づけられ、その結果をもとに約4〜5万人が徴兵検査に招集されます。
徴兵検査の通過者のうち、約5,000人が6カ月以上の基礎的軍務に従事する見込みです。
対象者と義務
ドイツの徴兵検査の対象は、18歳の男性です。
質問票への回答が義務づけられ、2028年からは徴兵検査そのものも、全員に義務化される予定です。
施行時期と制度の位置づけ
ドイツの徴兵検査義務の復活は、2024年に法案として提出されました。
2025年5月頃の施行を目指していましたが、現在(2025年7月時点)では、制度整備の段階にあり、全面施行には至っていません。
本格的な実施は段階的に進められ、2028年以降に、すべての18歳男性への義務化が完了する見込み。
徴兵検査は、2011年まで実施されていた旧徴兵制度とは異なり、「新たな兵役モデル」として設計されています。
ただし、徴兵検査の義務化と一部の兵役従事が含まれるため、実質的には徴兵制の段階的復活と見なされています。
兵役期間は最短6カ月で、最大17カ月まで延長可能。
報酬としては、月額1,800ユーロ以上の支給が予定されています。
徴兵検査復活の背景
ドイツが徴兵検査を再導入する背景には、複数の国際的・国内的な要因が絡んでいます。
- ロシアの軍事的脅威
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ウクライナ侵攻をきっかけに、欧州全体が安全保障の見直しを迫られています。
ドイツも例外ではなく、軍備強化が急務となりました。
- NATOとアメリカの信頼性の揺らぎ
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ドナルド・トランプ前米大統領の発言などを背景に、アメリカの関与が不確実とされ、独自の防衛体制強化が求められています。
- 人員不足に悩むドイツ連邦軍
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現役兵は約18万人、予備役は4.9万人にとどまり、計画される兵力46万人には遠く及びません。志願兵だけでは対応が難しい状況です。
- 欧州で広がる徴兵制復活の動き
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スウェーデンやノルウェーなど、北欧諸国はすでに徴兵制を復活・維持しており、欧州全体で再軍備の機運が高まっています。
- メルツ首相による政策転換
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保守系のフリードリヒ・メルツ首相のもと、防衛を最優先に掲げ、国防費を特別会計で増額。徴兵検査の義務化もその一環です。
世界各国の徴兵制度の動向
徴兵制度の現状は国や地域によって大きく異なります。いくつかの主要国の動きを見ていきましょう。
ヨーロッパ諸国の状況
- スウェーデン:2010年に徴兵制を停止したものの、2017年に再導入。
- ノルウェー・フィンランド:徴兵制を維持し、国民の義務として定着。
- フランス:兵役ではないが、「国民奉仕活動」として若年層に社会貢献活動を義務づけ。
アジア諸国の例
- 韓国:約20カ月の兵役義務があり、厳格な制度が続いています。
- 台湾:近年の中国情勢を背景に、兵役期間の延長を検討中。
- シンガポール:男性に2年間の兵役義務。
- 日本:自衛隊は完全志願制で、徴兵制度は導入されていません。
国際的なトレンド
冷戦終結以降は多くの国が志願制に移行しました。
しかし、近年の地政学的リスクの高まりにより、徴兵制を再評価・復活させる動きが顕著になっています。
徴兵検査復活による影響
徴兵検査の義務化が社会や外交に与える影響について、3つの視点から考察します。
国内社会への影響
- 若年層の進学や就職スケジュールに変化が生じる可能性があります。
- 軍に対する社会的意識や国防に対する理解が深まる契機にもなるでしょう。
- 一部の若年労働力が軍に吸収されることで、民間企業にとっては人材確保の課題も浮上します。
国際関係への影響
- NATO内での軍事的発言力が増すと同時に、EU域内での軍事協力に影響を与える可能性があります。
- ロシアなど近隣国との緊張関係がさらに高まるリスクもあります。
防衛政策への影響
- 徴兵検査の義務化は、ドイツの軍事方針転換の象徴といえます。
- 防衛予算の増額、装備の近代化、軍の機能強化などが今後加速する可能性があります。
まとめ

ドイツが進める徴兵検査の義務化は、安全保障環境の変化に対応した「新たな兵役モデル」として注目を集めています。
志願制から徴兵制度へと再び舵を切る動きは、欧州全体の防衛再編とも連動しており、国際情勢に大きな影響を与える可能性があります。
若い世代にとっても他人事ではないこの動き。今後の法案審議や制度の詳細に注目が集まります。