「攻撃を待つだけで本当に守れるのか?」
日本のサイバー防衛が、いま大きく変わろうとしています。
2025年5月に成立した「自衛サイバー防衛法」(正式名称:サイバー対処能力強化法)は、自衛隊や警察がサイバー攻撃の予兆段階で対処できるようにする、まったく新しい法律です。
この記事では、「能動的サイバー防御って何?」「自衛サイバー防衛法は企業や個人に関係あるの?」といった疑問に、わかりやすくお答えします。
自衛サイバー防衛法の基本を押さえる

自衛サイバー防衛法の背景や目的、導入された経緯について解説します。
なぜこの法律が必要になったのか
ここ数年、国家レベルのサイバー攻撃が増加しています。
中国やロシアなどからの攻撃が疑われるケースもあり、重要インフラや防衛システムへの被害が懸念されてきました。
従来の法律では、攻撃を受けた後でなければ対応できず、事前の予防措置には限界がありました。
そのため、自衛サイバー防衛法により、日本政府は「受け身」から「能動的」な対応へと転換する必要性を感じていました。
能動的サイバー防御とは何をするのか
能動的サイバー防御とは、サイバー攻撃の兆候がある段階で、攻撃元と見られるサーバーに自衛隊や警察がアクセスし、無害化することができる仕組みです。
これは、あらかじめ許可を得た上で行われるため、勝手に他人のコンピュータに侵入するというような違法行為とは異なります。
いつから、どのように運用される予定か
自衛サイバー防衛法は、2025年5月に成立し、2026年中の施行が予定されています。
自衛サイバー防衛法の運用開始は段階的に進められ、2027年には、本格運用が始まる見込みです。
従来の防衛との違いを比較

自衛サイバー防衛法と旧来型のサイバー防衛の違いを図表と共に説明します。
対応タイミングの違い(平時から予兆対応)
従来は「攻撃を受けてから対応する」受動的な方法が中心でしたが、新法の自衛サイバー防衛法では「攻撃の予兆段階で動ける」ことが大きな変化です。
これにより、重要インフラへの被害を未然に防げる可能性が高まります。
防衛対象の拡大(民間インフラも保護)
これまで防衛の対象は、主に防衛省や自衛隊のシステムに限られていました。
しかし、自衛サイバー防衛法では、電力・水道・交通・通信などの民間インフラも含まれるようになります。
そのため、一般企業にとっても、無関係とは言えません。
攻撃元への侵入の意味とその根拠
「攻撃元のサーバーに侵入する」と聞くと、不安を覚える人もいるでしょう。
しかし、これは国が設けた独立した審査機関の承認を得てから行われるものです。
自衛サイバー防衛法が成立したからといって、無制限にアクセスできるわけではなく、透明性と法的根拠が確保されています。
企業や個人への影響

能動的サイバー防御は国家レベルの施策ですが、企業や私たち一般人にも無関係ではありません。
ここでは、自衛サイバー防衛法が民間や個人にどのような影響を与えるのか、具体的に見ていきましょう。
インフラ関連企業への影響と対応義務
電力、ガス、水道、鉄道、空港、通信など、私たちの生活を支える重要インフラ企業は、サイバー攻撃のターゲットになりやすい存在です。
今回の自衛サイバー防衛法では、こうした企業が政府と情報を共有したり、攻撃の予兆に対して協力を求められたりするケースが増えると予想されています。
たとえば、「不審な通信が検知された場合、そのデータの一部を提供する」といった協力も必要になるかもしれません。
そのため、インフラ企業はこれまで以上にサイバーセキュリティ対策の強化が求められています。
国と民間が連携して、社会全体の安全を守る姿勢が重要です。
個人のプライバシーや通信の安全性は?
「自衛隊が通信を監視するって、私たちのメールやLINEも見られるの?」
そんな不安を感じる方もいるかもしれません。
結論から言えば、一般人のプライバシーがむやみに侵されることはありません。
自衛サイバー防衛法では、「対象を明確に限定し、必要最小限の情報だけを収集する」と定められており、個人の通信内容を無制限に覗くようなことはできない仕組みになっています。
また、政府や自衛隊の行動は、事前に承認を受けた上で行われ、運用状況も監視されています。
つまり、透明性とルールの厳格化によって、個人のプライバシーは守られているというわけです。
中小企業が備えるべきポイント
中小企業は「自分たちは関係ない」と思いがちですが、実は攻撃対象として狙われやすい存在でもあります。
理由は、セキュリティ対策が十分でない企業が多く、攻撃の“踏み台”として使われるリスクがあるからです。
特に、クラウドサービスの利用や、リモートワークの導入が進んでいる今こそ、自社のIT環境の見直しが必要です。
中小企業が今すぐできる基本対策は次の通りです。
- 社員向けに「不審なメールの見分け方」など、情報セキュリティ教育を行う
- 使用しているパソコンやシステムに、最新のセキュリティアップデートを適用する
- ウイルス対策ソフトやファイアウォールを導入し、常に更新を忘れない
- 外部との通信ログを記録し、異常なアクセスに気付ける体制を整える
これらの対策は、法律対応というだけでなく、日常的なサイバーリスクへの備えにもなります。
法の透明性と今後の課題
自衛サイバー防衛法は、強力な権限を持つ一方で、乱用されることがないように、さまざまな制限とチェック体制が設けられています。
ここでは、法律の透明性を保つための仕組みと、今後の課題について解説します。
事前承認制度と監視体制
政府や自衛隊が、サイバー攻撃の疑いがある相手に対して「能動的サイバー防御」(つまり相手のサーバーにアクセスして無害化する行為)を行うには、第三者機関の事前承認が必要です。
これは「やりすぎ」を防ぎ、市民のプライバシーや権利を守るための重要なルールです。
さらに、政府内には、複数の部署がその運用を常に監視する仕組みも整えられており、権限が一部の組織に集中しないようにされています。
こうした透明性の確保によって、「法律が悪用されるのでは?」という不安をできるだけ取り除くよう配慮されています。
サイバー人材の育成と不足
能動的サイバー防御を実際に動かしていくためには、サイバー攻撃の手口を理解し、攻撃元を特定・無力化できる高度な専門人材が必要不可欠です。
政府は、2027年度末までに、サイバー防衛に携わる人材を約4000人に増やす計画を立てています。
しかし、サイバーセキュリティの専門家は、世界中で不足しており、民間企業との人材獲得競争も激しくなると予想されています。
そのため、教育機関や企業とも連携しながら、専門人材の育成と確保を進めていく必要があります。
今後の法改正や技術変化への対応
サイバー空間の世界では、AI(人工知能)や量子コンピュータなど、新しい技術の登場が次々に起こります。
それにともなって、サイバー攻撃の方法も、年々巧妙になってきました。
今は通用している法律や技術も、数年後には通用しなくなることもあるのが現実です。
そのため、自衛サイバー防衛法も状況に応じて柔軟に見直しや改正が行われる必要があります。
つまり、一度作って終わりではなく、変化に対応し続ける力が求められる法律なのです。
まとめ|自衛サイバー防衛法の要点と私たちへの影響

2025年に成立した自衛サイバー防衛法(サイバー対処能力強化法)は、これまでの「受け身の防御」から「先手を打つ能動的な対処」へと、大きな転換をもたらしました。
この法律は、国家のサイバーセキュリティを強化するだけでなく、私たちの日常や企業活動にも少なからず影響を与える内容です。
ポイントを以下にまとめます。
✔ 法律の基本と目的
- 2025年に成立、2026年に施行予定
- 自衛隊や警察が、攻撃予兆のある相手サーバーにアクセス・無害化できる権限を付与
- 平時からのサイバー防衛を可能にする
✔ 主な特徴と仕組み
- 第三者機関による事前承認制度あり、運用の透明性を確保
- 民間インフラ企業への協力要請が想定される
- 個人のプライバシー保護にも配慮された設計
✔ 企業や個人が備えるべき点
- インフラ関連企業は政府と連携し、情報提供や防御強化の義務が生じる可能性あり
- 中小企業も、基本的なサイバー対策(社員教育、ソフト更新等)を今すぐ始めるべき
- 一般の個人も、サイバーリスクや国の動向に関心を持つことが大切
サイバー空間の安全は、国家だけでなく、私たち一人ひとりの意識と行動によって守られます。
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